【AFCアジアカップ 決勝 日本vsカタール】変わりつつあるアジアの勢力図

2023年1月1日

ポジティブな雰囲気しかなかった試合前

2大会ぶり5回目の優勝を目指す我らが日本代表。

準決勝で今大会の優勝候補最右翼とされたイランに圧勝し、
これまでのアジアカップで一度も負けていない決勝のピッチに駒を進めただけに、
日本を取り巻く雰囲気は非常にポジティブなものだったと思う。

それに対しカタールは、UAEに圧勝して初の決勝進出を果たしたものの、
今大会の2名の登録選手に代表としての出場資格があるのかという疑惑が浮上。

かつて元浦和のエメルソンに不当に国籍を与えてプレーさせた前科のあるカタールだけに、
正直、「またか」と思うところはあったのだけど、
結局、疑惑が晴れて、2選手とも決勝のピッチには立つことになった。

しかしながら、チームの動揺を誘うような出来事がピッチ外で起きた事は事実で、
それが試合にどう影響するかという懸念材料を抱えていた。

試合を動かした個の力

この手のカップ戦の決勝はお互いに様子を見るような展開になって、
膠着した時間が長く続くもの。

この試合でも例に違わず、前半は落ち着いた立ち上がりになったけど、
思いもよらぬ形で先制ゴールが生まれることになった。

ペナルティエリア内のゴール正面の位置でボールを受けた
カタールのエースであるアリが、リフティングでボールを浮かせると、
これをバイシクルシュート。

このシュートが、権田の手を掠め日本のゴールのネットを揺らしてしまった。

この場面に関しては吉田と権田に対して、
何とかならなかったのかと思う気持ちもあるのだけど、
滅多にお目にかかれないようなスーパーゴールだったので、
どちらかというとアリのプレーが素晴らしかったという気持ちの方が強い。

それだけに、気持ちを切り替えて同点ゴールを目指して欲しかったのだけど、
ここでチームとして上手く修正できなかったのが痛恨だった。

勝敗を決定づけた2点目

ハーフタイムにスタジオ解説の福西が指摘していたように、
この試合では中盤のバランスを欠いていた。

同点ゴールを狙いに前掛かりになる柴崎に対し、これ以上の失点は避けたい塩谷。

このアンバランスな中盤につけこんだハティムのミドルシュートが、
結果的に試合を決定づけてしまったように思う。

この場面でも、最後にハティムに寄せに行ったのは吉田だったけど、
それまでに誰も寄せに行けずにズルズルと下がってしまったのはいただけなかった。

先日のイラン戦で故障した遠藤に代わって、
ボランチに入った塩谷一人のせいというわけではないのだけど、
これまでこのような場面でことごとくピンチの芽を摘んできた遠藤の存在の大きさを、
痛みを以って再認識させられることになったね。

流れを変えきれなかった後半

2点ビハインドでハーフタイムを迎えたことで、
後半頭から動いてくるかなと思っていたのだけど、
後半開始のピッチに立っていたのは前半と同じ11人。

これまで攻め上がりを自重していた塩谷が前目にポジションを取ったり、
CBの冨安が流れの中からゴール前に攻め上がるなど、
前半には見られなかった攻撃が見られたけど、
試合の大勢を変えるまでには至らなかった。

武藤を投入したあたりから日本が攻勢を強め、
南野のゴールで1点を返すことに成功したものの、
吉田がペナルティエリア内でハンド犯しPKを献上。

このPKをアフィフに決められ、それまでの攻勢ムードは一気に沈静化してしまった。

結果論になるけど、この試合での原口と堂安は精彩を欠いていたし、
後半頭から武藤と伊東を投入しても良かったんじゃないだろうか。

Jリーグで3度の優勝を誇る森保が良い監督なのは間違いないと思うけど、
カップ戦での優勝は1度も無いあたり、
この手の一発勝負の試合で流れを手繰り寄せるような
勝負師的な采配には長けていないのかなと感じたね。

カタールは強い

負けた試合なので、どうしても日本に対してネガティブなことばかり書いているけど、
この試合でのカタールは本当に強いチームだった。

大会前にシャビが「カタールが優勝する」と予想していた時、
現地メディアに対するリップサービスなのかと思っていたけど、
全くそんなことは無かった。

今大会のカタールの試合は、韓国戦とUAE戦を見たけど、
日本戦も含めいずれも異なった戦術を採用しているあたり、
戦い方の引き出しが多いチームだという印象を受けた。

代表チームの活動は短期間で行われるため、
クラブチームよりも戦術を落とし込む時間が限られているものだけど、
日本がグループステージで苦戦を強いられたトルクメニスタンのように、
国内リーグのチャンピオンチームに数人の選手を加えるという手法は、
短期間で代表チームを成熟させるには非常に理に適った方法だと思う。

また、カタールはユース年代から一貫して同じ監督の下で戦っているというのもあるし、
国を挙げて長年にわたり取り組んできた育成プログラムが結実したとも言えるだろうね。

2022年のワールドカップのホスト国はカタール。

一度もワールドカップに出場したことの無い国がホスト国になるということに、
疑問を呈していた人も多いと思うけど、
カタールがこの調子の成長曲線を3年後まで描き続ければ、
ワールドカップのホスト国に相応しい国になっているだろうね。

今回のアジアカップで日本が得たもの

決勝まで勝ち進みながら優勝トロフィーを手にすることが出来なかったのは、
残念の一言に尽きる。

ただ、今の日本代表は、昨夏のロシアワールドカップ以降、長谷部や本田など、
これまで主力としてプレーしてきた選手たちが代表を退き、過渡期を迎えているチーム。

また、その過渡期を迎えているチームの中でも、
大会前に故障者が続出するなどの想定外事象が起きた中でのこの準優勝という結果は、
決して悲観するものでは無いと思う。

日本は今夏、コパアメリカにゲストとして招待されている。

このアブダビのピッチで悔しい思いを味わった日本の選手たちが、
南米の猛者たちを相手にどのような戦いを見せてくれるのか、今から楽しみでならない。

日本13カタール
’12 アルモエズ・アリ
’27 アブデルアジズ・ハティム
’69 南野拓実
’83 アクラム・アフィフ