【天皇杯決勝 ヴァンフォーレ甲府vsサンフレッチェ広島】ハッピーエンドで幕を閉じたヴァンフォーレ甲府の大冒険

不確定要素多き神無月のファイナル

今日は天皇杯の決勝。

今年の11月から12月にかけてカタールワールドカップが開催される影響で、
本来は元日に行われる天皇杯の決勝が10月に開催されるというのは、
シーズン前からわかっていたことだけど、いざ決勝戦当日を迎えると違和感しかない。

そんなイレギュラーなシーズンを象徴するかのように、
ファイナルの舞台である日産スタジアムには、
J2で18位に沈むヴァンフォーレ甲府が勝ち上がってきた。

そんな甲府と相対するは、J1で3位と好調のサンフレッチェ広島。

順当に行けば広島が勝利を収めるところだろうけど、
甲府は、札幌、鳥栖、福岡、鹿島と4戦連続でJ1勢を破って決勝まで駒を進めているので、
J2リーグでの順位はアテにならない。

それに、広島はJ1リーグの優勝は3度あるものの、
カップ戦の決勝は5戦5敗と一度も勝てていない歴史があるので、
一概に広島が有利とは言い切れないところがある。

ガンバ大阪が3冠を達成した2014年以来、
8年ぶりに天皇杯決勝の会場となった日産スタジアムで、
賜杯を掲げるのはどちらのチームになるのだろうか。

逃げ切れなかった甲府と寸前のところで首の皮をつないだ広島

試合は序盤から広島がポゼッションを高めて試合を支配し、
甲府は自陣で広島の攻撃を跳ね返すといった試合展開。

まあ、両者の力量を考えれば順当な試合展開だったわけだけど、
長谷川と鳥海というクリエイティブな2シャドーが、
アンカーの野津田の脇のスペースを使ってボールを受け始めると、
徐々に甲府が広島陣内で試合を進める時間を増やしていく。

すると、前半26分に得たCKでキッカーの長谷川がショートコーナーを選択。

長谷川とのパス交換で左サイドを深くえぐった荒木がマイナスのクロスを送ると、
その先にいた三平が決めて、なんと甲府が先制に成功。

三平って、京都や大分にいた時はチームに何人かいるグッドプレーヤーの1人といった感じで、
ピッチ上のプレーよりもオフザピッチのムードメイカーの印象の方が強い選手だけど、
この試合ではゴールを決めただけでなく、前線からの守備も献身的に行い、
最前線で体を張って攻撃の起点を作るなど、完全にチームのキーマンだったね。

先制に成功した甲府は、その後も広島の攻撃を凌ぎつつチャンスを作っていたものの、
後半に入ると守勢に回る時間帯が長くなり、なかなか攻撃に出れなくなってしまった。

これは、広島が良くなったというより、両者の選手層の違いが出た格好かと。

広島は、ドウグラス・ヴィエイラや森島といった実力者をベンチに下げても、
ベン・カリファやエゼキエウといった同じかそれ以上のクラスの選手が代わりに出てくるけど、
甲府の場合、スタメンに比べてベンチメンバーは少し落ちる感が否めなかったしね。

特に後半17分に三平との交代で入ったウィリアン・リラは、
クロスバー直撃のミドルがあったように、一発を持っている選手という印象を受けたけど、
ボールを持ってもドリブルで単騎突撃からのシュートしかプレーの選択肢が無く、
三平のようにシャドーの選手を生かすような気の利いたプレーは出来ないように見えたしね。

ただ、広島もそんな甲府を相手に決定機を作れずにいたので、
このまま甲府が逃げ切るのかなと思っていたら、
エゼキエウの股抜きパスを受けて左サイドの深くをえぐった川村が、
GK河田の頭上を射抜く強烈なシュートを突き刺してスコアは振り出しに。

試合を通して終始攻め続けていた割に、
広島の決定的なシュートシーンってこの場面が初めてだったと思うけど、
シーズン終盤になって俄かに存在感を高めた新進気鋭の若武者は、
後半39分に巡ってきたまたとないチャンスを確実にモノにしたね。

結局、試合は後半アディショナルタイムでも決着が付かず、
勝敗の行方は延長戦に委ねられることになった。

守護神・河田晃兵、降臨

90分の戦いの中では、攻められてはいたものの、
シュートを打たせずに粘り強く守っていた甲府だったけど、
延長に入ると、満田のFKがクロスバーを直撃するなど、
あわやというシュートを打たれる場面が増えてくる。

それでもなんとか河田を中心に守っていた甲府だったけど、
延長後半11分に山本英臣がペナルティエリア内でハンドを犯しPKを献上してしまう。

選手の入れ替わりが激しい甲府に於いて20年にわたってプレーし、
石原克哉と並んでクラブのレジェンドと称される選手が、
現役生活のハイライトとなるであろう大舞台で戦犯になってしまうなんて、
なんて残酷な結末なんだ・・・と思っていたら、
このPKを河田がストップし、絶体絶命のピンチを凌いでみせた。

さらに、河田はその後のPK戦でも広島の4人目の川村のシュートもストップするなど、
まさに大車輪の活躍。

大学ナンバーワンGKという触れ込みで河田がガンバに入団してきたのは12年前のことだったか。

2014年に3冠を達成した時のメンバーの1人ではあるけど、出場機会には恵まれず、
ガンバでは思い描いていたキャリアにはならなかったと思う。

でも、こうやって甲府の守護神としてチームやサポーターから信頼されている姿を見ると、
「河田、甲府に行って良かったなぁ」と心の底から思うね。

そして、これを決めれば甲府の初タイトルが決まるという場面で、
5人目のキッカーとして広島のGK大迫と対峙したのは、延長後半にPKに繋がるハンドを犯し、
あわや戦犯になりかけた山本。

ペナルティスポット付近の芝を神経質に直している姿を見て、
ナーバスになりすぎてPK失敗するんじゃないかと思ったけど、
山本のシュートはゴールネットを揺らし、甲府に賜杯をもたらしてみせた。

歓喜に沸く甲府のゴール裏。

試合後にゴール裏に掲げられた横断幕に書かれていたように、
一時はクラブ消滅の危機に瀕していたこともある甲府。

2022年に地方のスモールクラブが挑んだ大冒険の軌跡は、
長い天皇杯の歴史の中で燦然と輝く1ページとして、今後も語り継がれていくだろう。

来週はサンフレッチェサポーター

勝者と敗者のコントラストが同じピッチの上ではっきりを別れるのが、
カップ戦の決勝の試合後の光景。

広島は、6度目のカップ戦の決勝でも勝つことが出来なかった。

ただ、今季の広島にはこの悔しさを晴らす舞台がすぐに用意されているので、
1分でも早く次の試合に向けて切り替えてもらいたい。

次週、国立競技場で行われるルヴァンカップの決勝でセレッソ大阪を降し、
佐々木翔がリーグカップを千駄ヶ谷の空に掲げることを期待している。

ヴァンフォーレ甲府11サンフレッチェ広島
       PK(
’26 三平和司
’84 川村拓夢