【YBCルヴァンカップ 決勝 アビスパ福岡vs浦和レッズ】この聖杯がこれからの福岡にどんな景色を見せるか

聖杯は15年ぶりに関門海峡を越えるか

試合終了間際のピエロス・ソティリウのゴールが決勝点となって広島がセレッソを降し、
佐々木翔が聖杯を千駄ヶ谷の空に掲げた前回大会の決勝から1年、
今年もルヴァンカップ決勝の季節がやってきた。

対戦カードは、クラブ史上初のカップ戦ファイナルに臨むアビスパ福岡と、
2016年大会以来の戴冠を期す浦和レッズ。

福岡には井手口が所属しているので、
ガンバ大阪のサポーターとしてはどうしても福岡に肩入れしてしまいがちになるけど、
浦和がそんな簡単な相手ではないことも、
今季浦和に4戦全敗のガンバ大阪のサポーターであればよくわかるはずだ。

どちらが勝つにせよ秋晴れの国立に相応しい熱くてクリーンな試合に期待したいね。

サポーターの慢心はピッチにも波及する

国立競技場の7割から8割を占めた浦和サポーターが、
チャントとビジュアルで圧巻の雰囲気を作り出す一方で、
ゴール裏の2階の客席に出したビッグフラッグが絡まってしまうなど、
初のカップ戦決勝の舞台に場慣れしていない感が出ている福岡サポーター。

まあ、このような状況になることは試合前からわかっていたことではあったけど、
福岡サポーターがビニール袋を使用したコレオを作っていた時、
浦和サポーター側から「頑張れー」という感じの茶化すような拍手が起きた時には、
浦和が福岡を下に見て油断しているんじゃないかという気がしてならなかったね。

その雰囲気はピッチにも伝播する。

相手の様子を見るような感じで試合に入った浦和に対し、
強度高く試合に入った福岡が試合の主導権を握ると、
さっそく紺野と荻原が1対1になる局面を迎える。

おそらく荻原は左利きの紺野のカットインからのシュートを警戒して、
左足のシュートコースを切りに行ったんだろうけど、
その裏を欠いた紺野が縦に突破して右足でグラウンダーのクロスを送ると、
ファーサイドに詰めていた前が押し込んで、前半5分で福岡が先制に成功する。

ここ最近の試合では、井手口がシャドー、前がボランチという位置関係が多かったけど、
この試合で逆の配置にしたことが功を奏した形になったね。

失点したことで、浦和が目を覚ますかと思われたけど、低調なパフォーマンスのまま。

福岡の3バックに対し、浦和はカンテの1トップとトップ下の早川で対峙する格好だったけど、
カンテが福岡のプレッシャーを嫌ってゴールから離れた位置でパスを受けようとするものだから、チャンスの局面になってもゴール前に小兵の早川1人しかいない状況が多く、
なかなかシュートに持っていけない場面が多かったね。

浦和のスタメンを見た時、髙橋利樹とカンテを2トップ気味にして、
福岡の3バックを攻略する意図なのかなと思ったのだけど、
その髙橋は、右サイドハーフのポジションでボールに絡めず試合から消えていたので、
スコルジャはどういう意図があってこの前線の並びにしたのかわからなかった。

結局、前半のうちに浦和の攻撃が機能することはなく、
前半のアディショナルタイムを迎えると、
CKの流れから紺野のグラウンダーのクロスを、中で宮が合わせ、
福岡が前半終了間際に貴重な追加点を奪う。

一方で浦和としては、試合開始直後と、前半終了間際という、
集中しなければいけない時間帯に失点して2点ビハインドでハーフタイムを迎えるという、
流れが悪い試合展開になってしまったね。

浦和の守護神が変えた潮目は福岡を飲み込み切れず

後半に2点を追う浦和は、早川と髙橋に代えて大久保と安居を投入。

前半機能していなかった2人を代えたことで、これで浦和が巻き返すかなと思ったのだけど、
後半も引き続き福岡ペース。

2点リードしたことでセーフティに試合を進めようと考えがちなところ、
長谷部監督は、ボランチの森山に代えてアタッカーの金森を投入して、
「攻撃の手を緩めるな」というメッセージを送ったことが、功を奏しているようだったね。

すると、オーバーラップしてきたドウグラス・グローリが、
マッチアップしたホイブラーテンを股抜きでかわしてペナルティエリアに進入すると、
ホイブラーテンは堪らずに後ろから手をかけてしまい、福岡にPKが与えられる。

ここで福岡に3点目のゴールが決まれば試合の大勢が決まってしまうところだったけど、
そうはさせなかったのが浦和の守護神・西川周作。

キッカーの山岸のシュートを見事に読み切って、PKをストップしてみせた。

山岸ってFWとしてはサイズがあるタイプではないのに、
ショルツとホイブラーテンという浦和の強力なCBを前にしても、
安易に中盤に下がったりサイドに流れたりせずに背負って受けようとするし、
前線からの献身的な守備は感銘を覚えるぐらいだった。

まあ、それだけにPKを決められなかったのはケチがついたけど、
ガンバの前線の選手に爪の垢を煎じて飲ませたいぐらいだね。

ただ、この西川のPKストップがターニングポイントとなり、試合の流れが一気に浦和に傾くと、
インナーラップした酒井の浮き球のパスを受けた明本が、
GK永石の股下を抜くシュートを決めて、浦和が1点を返す。

その後、紺野が脚を攣ってピッチを後にすると、いよいよ福岡は防戦一方になり、
これは延長に持ち込まれると勝ち目無いなという試合展開になってしまう。

それでも福岡の選手たちの懸命な守備に浦和はスコアを振り出しに戻すゴールは奪えず、
試合はアディショナルタイムへ。

アディショナルタイムは8分の表示。

前回大会の決勝は、広島が後半のアディショナルタイム11分の間に2点を挙げ、
セレッソを逆転したので、まだまだわからないと展開だったけど、
カンテの理不尽シュートはポストに阻まれ、
福岡のペナルティエリア近くで得たセットプレーのチャンスも、
痛恨のサインプレーのミスで大久保のキックは誰にも合わず。

結局、浦和は前半の低調なパフォーマンスのツケを払い切れず、
後半のアディショナルタイムを凌ぎ切った福岡に勝利の女神は微笑んだね。

聖杯は相応しい者のところへ

福岡にとってはクラブ史上初のタイトルとなるルヴァンカップを獲得。

5年に1度という周期でしかJ1を戦えず、経営難にも直面するなど、
クラブの歴史は冬の時代が長かった福岡だけど、
タイトルホルダーとなったことで、今後見える景色も違ってくるはず。

井手口としては、2度目の海外挑戦も上手くいかずに不本意なJリーグ帰還だったと思うけど、
故郷に錦を飾ることが出来て、結果的に良い移籍だったんじゃないだろうか。

一方で、表彰式で審判団に大ブーイングを浴びせた浦和サポーターはいただけない。

昨年、セレッソのサポーターが審判団にブーイングした時も同じことを書いたけど、
まさか、「お前らが余計なことをしたから俺たちはタイトルを獲れなかったんだ」とでも、
思っているのだろうか。

世界中どこで試合をしても”浦和の応援”を作り出す浦和サポーターの姿は、
リスペクトに値するものだと思うけど、この試合では、先述の試合前の出来事も含め、
慢心していたような気がしてならない。

ただ、この試合のMVPに選ばれた前が、試合後のインタビューで、
浦和サポーターに対し「最高のファイナルの雰囲気を作り上げた」として、
感謝の気持ちを述べた時には、秋晴れの国立に爽やかな風が吹いたような気がしたね。

アビスパ福岡21浦和レッズ
’5 前寛之
’45+4 宮大樹
’67 明本考浩