【全国高校サッカー選手権大会 準決勝 静岡学園vs矢板中央】これが新たな静学スタイル

緑のユニフォームに根付く伝統

今から40年以上前の高校サッカーは、
ロングボール主体のキックアンドラッシュのスタイルが主流だった。

そんな潮流へのアンチテーゼのように、若き日の井田勝通に率いられた静岡学園は、
ショートパスとドリブルを織り交ぜたポゼッションスタイルのサッカーを展開し、
1977年大会の高校サッカー選手権の決勝に進出。

決勝では惜しくも浦和南高校に負けて準優勝となるが、
4−5という壮絶な打ち合いとなったこの試合は、
今回で98回を数える高校サッカー選手権の歴史に於いても伝説の試合として語り継がれている。

この大会以降、静学と言えばポゼッションというイメージが定着。

2008年に井田監督が第一線を退いてもなお、そのスタイルは継承されていたのだけど、
11月のエコパで富士市立の挑戦を退けた静学のサッカーは、ポゼッションに執着せず、
ロングボールを多用したカウンタースタイルで、
僕が知っている静学のサッカーとは程遠いものだった。

静学はここ数年選手権の舞台から遠ざかっていたので、富士市立との試合では、
全国へ行くためにあえて伝統の戦い方を捨てたのかなと思っていたのだけど、
今大会の静学の戦いを伝え聞くところによると、
僕がエコパで見たサッカーと同じサッカーをしているようだった。

この日の埼玉スタジアムの第2試合で矢板中央と対戦する静学は、
僕が知っている静学じゃないんだなと思って試合を見始めたのだけど、
僕の視線の先にあるピッチでは、守備を固める赤と黒のユニフォームに対し、
簡単にロングボールを蹴らずに辛抱強くパスを回しながら、
守備ブロックの綻びを探す緑のユニフォームが試合をしていた。

静学は伝統を捨ててなんかいない。歴史は確実に受け継がれていっている。

封じられた右の翼

矢板中央は、全国的な知名度はそれほど高くないものの、
高校サッカー選手権では上位の常連となりつつある高校だ。

同校のアドバイザーの古沼貞雄さんがかつて監督を務め、
一時代を築いた帝京高校の代名詞でもある堅牢な守備からの速攻が彼らのスタイルである。

そんな矢板中央が静学と相対するにあたり、どのように得点をするかではなく、
どのように相手の攻撃を防ぐかというアプローチで試合に入るのは必然で、
そのアプローチの矛先は静学の右サイド、10番松村優太の方向へと向かった。

卒業後の鹿島アントラーズへの入団が内定しているウインガーがボールを持つと、
すぐさま近寄ってくる複数の赤と黒のユニフォーム。

今季のチームの最大のストロングポイントが封じられた静学は、
ボールこそ保持するものの、決め手を欠いたまま時計の針を進めていた。

均衡を破った逞しさ

往々にして、静学が負ける時のパターンは、
ボールを圧倒的に支配しながらもゴールを奪えずにいるうちに、
前掛かりになったところをカウンター一発でやられるというパターン。

この試合でも、矢板中央に何度かカウンターでゴールに迫られる場面があり、
決定的なピンチもGKの好セーブで凌ぐなど、
圧倒的に攻めながらも時折脆さが顔を覗かせていた。

後半もアディショナルタイムに入り、PK戦も頭によぎる展開になったけど、
予想に反し、試合を決めたのは静学の方だった。

この試合で終始、矢板中央の徹底マークに苦しんでいた松村が、
ドリブルで強引にペナルティエリアに侵入すると、矢板中央のDFのファウルを誘い、PKを獲得。

このPKを自分で沈めて、静学を24年ぶりの選手権決勝のピッチへ導いてみせた。

魅力的なサッカーを志向しながらも勝負弱い印象があった静学だけど、
この試合のピッチで緑のユニフォームを纏った選手たちの戦いぶりは、
これまでの印象を覆すような逞しいものだったと思う。

まさに矢板中央のベンチに座っている古沼さんが率いていた頃の帝京のようにね。

宴はあと2日

12月30日に開幕した第98回高校サッカー選手権も、明後日の決勝戦を以って終幕。

毎年そうなんだけど、準決勝が終わってから決勝が始まるまでの時間は、
決勝戦が待ち遠しい反面、この楽しい時間が終わってほしくないという気持ちが混在して、
とても複雑な気持ちになる。

それだけに、13日の試合を見終わった後に、「素晴らしい大会だった!」と思えるように、
決勝に進出した両校にはベストを尽くして欲しいと思う。

今大会ではどちらの緑がユニフォームと同じ色の優勝旗を持ち帰るのか楽しみやね。

静岡学園10矢板中央
’90+4 松村優太