【全国高校サッカー選手権大会 決勝 青森山田vs静岡学園】サッカー王国は凋落してなんかいない

サッカー王国復権の高すぎるハードル

サッカー王国と称される静岡だけど、近年の高校サッカー選手権での静岡県代表は、
その力を全国に示すどころか、1回戦で大会を去ることも珍しくなく、
かつて栄華を極めた王国の凋落ぶりに、
寂寥感を覚えていた高校サッカーファンも多かったと思う。

ところが、今大会の静岡学園は、ここ数年の静岡県勢の不甲斐ない成績に反し、
2007年度大会の藤枝東以来、12年ぶりに決勝戦まで駒を進めた。

ただ、今大会は強豪校のほとんどがトーナメント表のAブロックに入ったのに対し、
静学は比較的組み易い相手が多いCブロックを勝ち抜いての決勝進出だったので、
サッカー王国復活を宣言するには憚るところがあった。

ましてや、決勝の相手は激戦区のAブロックを順当に勝ち上がってきた、
高校年代の王者・青森山田。

ここで勝つことが出来れば、高らかにサッカー王国復活を宣言できるだろうけど、
そのハードルはあまりにも高いように思われた。

序盤は力を誇示した東北の雄

前半、最初に試合の主導権を握ったのは青森山田。

ゴールまで40mはあろうかというFKだったけど、
横浜FCへの入団が内定している6番古宿のキックは、
2年生のDFリーダー5番藤原の頭にピンポイントで合い、
前半11分に青森山田が先制に成功。

その後も、青森山田は球際の攻防をことごとく制し、
静学の選手たちは自陣からボールを運び出すのもやっとな状態。

そんな時間帯が続いているうちに、
DFラインの裏へ抜け出した青森山田の10番武田が、
静学のGK、17番野知のファウルを誘い、PKを獲得。

このPKを武田本人が蹴り込んで2-0となったところで、
勝負はあったかのように思われた。

今大会の青森山田は、Jリーグを3連覇した時の鹿島のように、
複数得点差でリードすると前線からの積極的なプレスはやめ、
相手にボールを持たせながら自陣でしっかりとブロックを作って守り、
のらりくらりと試合を進めるというのがお決まりのパターン。

しかしながら、2回戦の米子北戦、3回戦の富山第一戦ではそれが上手くいったものの、
準々決勝の昌平戦、準決勝の帝京長岡戦では、
ペースダウンしたタイミングで相手に押し込まれ、
相手の拙攻に助けられる場面が何度も目に付いた。

この試合でも例に違わず、
それまで防戦一方だった静学が、強度が下がった中盤でリズムを取り戻すと、
前半終了間際にセットプレーから5番中谷のゴールで1点を返すことに成功。

この1点が静学の後半の反撃の呼び水となった。

素晴らしき勝者と敗者

後半16分には今大会の得点王の12番岩本に代わり、
1トップに入った9番加納が同点ゴールを挙げると、
後半40分にはセットプレーから中谷がこの日2点目となるゴールを挙げ、
2点ビハインドから試合をひっくり返してみせた。

試合の最終盤では、青森山田の19番鈴木琉聖のロングスローから、
何度もゴールを脅かされたものの、全員が集中してこれを凌ぎ切り、
24年ぶりに優勝旗を手にすることに。

静学と言えば、魅力的なサッカーをするものの、
どこか勝負弱いイメージのある高校だったので、
このような逆転勝ちは良い意味で静学らしくない。

ただ、この試合で静学の選手たちが見せた、
ショートパスとドリブルを織り交ぜたテクニカルなスタイルは、
まさに多くの高校サッカーファンを魅了した静学らしさそのものだったように思う。

対する青森山田は、トーナメントの序盤で見せていた圧倒的な強さからは、
想像できない“らしくない”逆転負けだった。

しかしながら、試合後に川淵三郎氏がTwitterで称賛していたように、
敗者として壇上に上がることになった表彰式でも、
誰一人として不貞腐れた態度を見せなかったのは素晴らしかったと思う。

サッカー界のルーズヴェルト・ゲーム

かつてのアメリカの32代大統領、フランクリン・ルーズヴェルトは、
「野球で一番面白いスコアは8-7だ」と言ったことから、
8-7の試合のことはルーズヴェルト・ゲームと呼ばれることになった。

個人的に、サッカーに於けるルーズヴェルト・ゲームは、3-2だと思っている。

高校サッカー選手権の決勝という至高の舞台で披露されたルーズヴェルト・ゲームは、
昨日のAFC U-23選手権の試合で溜め込んだストレスを解消するものであったと同時に、
毎年手持ち無沙汰になるJリーグ開幕までの空白期間を、
埋めるだけの余韻をもたらしてくれそうだ。

やはり高校サッカー選手権は素晴らしい。

ものすごく気が早いけど、次回の99回大会ではどのような戦いが見られるのか、
今から楽しみでならない。

青森山田2-3静岡学園
’11 藤原雄大
’33 武田英寿
‘45+2 中谷颯辰
’61 加納大
’85 中谷颯辰