【全国高校サッカー選手権大会 準々決勝 市立船橋vs帝京長岡】伝統を作ってきたチームとこれから伝統を作っていくチーム

伝統校の意地

市立船橋と言えば、選手権を5度制するなどの栄華を極め、
数々のプロ選手を輩出している誰もが認めるところの高校サッカーの名門である。

コロナ禍で例年のような強化が出来なかったのは、
今回の選手権の全出場校に当てはまることだと思うけど、
今季限定で開催されたプレミアリーグ関東で1勝も出来ず、
さらに12月には学校内で新型コロナウイルスのクラスターが発生し、
部活動の休止を余儀無くされるなど、
市船が置かれていた状況はその中でも厳しいものだった思う。

今季のチームにはJリーグ内定者が1人もおらず、タレント力にも乏しいけど、
それでも県内最大のライバルである流経大柏を降して全国行きの切符を掴み、
選手権のトーナメントをベスト8まで勝ち進んできたのは、
伝統の青いユニフォームを身に纏っている意地だろうか。

そんな市船を準々決勝で待ち受けるは、前回大会ベスト4の新興勢力・帝京長岡。

伝統的にハードワークをベースにした組織的な守備が持ち味の市船と、
フットサル仕込みのテクニックを生かしたポゼッション志向の帝京長岡という、
対照的なカラーのチーム同士の一戦は、
高校サッカーの新しい潮流を感じさせるものだった。

末恐ろしい越後の国の新興勢力

昨年度の大会でベスト4に輝いた帝京長岡には、
晴山、谷内田、田中など、個の能力に優れたタレントが揃っていたけど、
今大会のチームは、GKを含めたDFラインに3年生がいないあたり、
帝京長岡の古沢監督は、チームのピークを、
来年もしくは再来年に持ってこようとしているのかなと予想。

しかしながら、試合を見始めて5分も経たないうちに、
その予想が外れだと思い知らされた。

ボランチの川上(ガンバ大阪門真JY出身!)を起点としたパスワークと、
市船の強度の高いプレスをものともしない各々のキープ力で、
試合の主導権を握ってみせた若き緑の選手たち。

ピッチに入れば年齢は関係ないと言うけど、
1年の差が如実に出やすい育成年代の試合で、
1,2年生中心のチームがここまで完成度の高いサッカーをするなんて、
その末恐ろしさに、もう今から来年度の選手権が楽しみになったね。

また、1月2日に行われた2回戦の後に、
昌平がFC LAVIDAという中学生年代のクラブを、
実質的な下部組織としてチームの強化に生かしているとブログに書いたけど、
この帝京長岡も、幼稚園生から中学生年代までをカバーしている
長岡JYFCというクラブを下部組織としてチームを強化している。

この中学生年代のクラブチームを下部組織化する強化方針は、
今後、ますます高校サッカーのトレンドになっていきそうな感じがするね。

とどめを刺されなかったから反撃できただけの話

そんな帝京長岡相手に後手を踏んだ市船は、前半26分,30分に立て続けに失点。

帝京長岡は得点源の石原を負傷で欠いていたにも関わらず、
それを感じさせないような前線の流動性だったね。

2点ビハインドを受けて、市船の波多監督は3バックに布陣変更するも、
流れを変えられず、前半だけで帝京長岡に二桁のシュートを許すなど、
苦しい試合を強いられることになってしまった。

ただ、この試合で波多監督がやるべきだったのは、
DFラインの並びを変えるんじゃなくて、帝京長岡のボランチの川上を、
誰がマークするのかはっきりさせることだったんじゃないだろうか。

市船の選手の間のスペースにフラフラとポジションを取る背番号14に、
フリーの状態で前線にパスを配球させ過ぎていたように思う。

最終的には、GKの細江からのロングフィードに抜け出した松本が、
後半アディショナルタイムに1点を返すことに成功したけど、
反撃するのがあまりにも遅く、
市船のコロナ禍での選手権はベスト8で終えることになってしまったね。

そこに観客はいなくとも

このベスト8では、市船だけでなく昌平も敗れたため、
青森山田が優勝する可能性が一層高まったように思うけど、
予定調和は面白くないので、ひと波乱が起こることに期待したいところ。

この試合で市船を降した帝京長岡には、
波乱を起こせる可能性は十分にあると思うので、決勝まで勝ち進んで、
前回大会の準決勝で敗れた青森山田にリベンジを果たして欲しいね。

ただ、昨今の新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、
緊急事態宣言が発出される可能性が高まったことで、
埼玉スタジアムで行われる選手権の準決勝と決勝が、
完全に無観客で開催されることになってしまった。

本来であれば、満員の観客の中で試合が出来る晴れ舞台なのに、
静寂に包まれたピッチでプレーする選手たちの気持ちを考えると
同情を禁じ得ないところがある。

試合を中継するテレビカメラの向こう側には、家族やチームメイト、
多くの観客が見守っていることを感じながら、
選手たちには埼玉スタジアムのピッチで勇敢に戦ってほしいと思います。

市立船橋12帝京長岡
’26 葛岡孝大
’30 上野一心
’80+3 松本海槻