【天皇杯決勝 川崎フロンターレvs柏レイソル】120分+PKの末に賜杯が辿り着いたのは多摩川の対岸
賜杯が越えるのは多摩川か?それとも江戸川か?
山本英臣キャプテンが新横浜の空に賜杯を掲げ、
プロヴィンチャのヴァンフォーレ甲府の冒険が大円団に終わった前回大会の記憶も新しい中、
2023年シーズンのカップウィナーを決める戦いが、2年ぶりに千駄ヶ谷で行われる。
ホーム側に陣取った川崎フロンターレは、近年はタイトル争いの常連ではあるけど、
今季は4年ぶりにリーグ優勝争いに絡めず、ルヴァンカップもグループステージ敗退と、
彼らにしてみれば不本意なシーズンだっただけに、
最後に残された天皇杯のタイトルだけは譲れないだろう。
不本意なシーズンだったというのは、アウェイ側に陣取った柏レイソルにも当て嵌る話だけど、
細谷や土屋、山本といった若い選手が多い中で残留争いを乗り切り、
最後に天皇杯のタイトルを獲ったとなれば、
17位に終わった2023年シーズンにも一定の意義を見出せるだろう。
最後に笑うのがどちらになるにせよ、良い試合が見たいと望む一方で、
川崎と柏がこれまでに獲得した天皇杯のタイトルは、
いずれもガンバに勝利して得たものということで、
大阪方面に少しでも感謝の気持ちを持って試合に臨んでもらえると嬉しいところだ。(冗談ですよ)
お互いに決め手を欠いた前後半90分
不本意なシーズンだったと前述したものの、公式戦で最後に敗れたのは9月の新潟戦と、
シーズン後半は完全に立ち直った川崎が、10月の天皇杯準決勝で熊本に勝って以来、
公式戦で勝利が無い柏を押し込むものと予想していたのだけど、
そんな予想に反して試合の主導権を握ったのは柏。
川崎のアンカー・橘田の脇のスペースで小屋松やマテウス・サヴィオが起点を作り、
細谷と山田をシンプルに裏へ走らせるという、
アンカーを置いているチーム攻略の定石で川崎の守備陣を後手に回す。
何度もセットプレーのチャンスを獲得した柏だったけど、
ここですんなり先制できるようなチームだったら、
そもそもリーグ戦で17位になんてなっていないわけで、
主導権を握りながらもゴールネットを揺らすまでには至らない。
対する川崎は、序盤こそ柏に主導権を握られたものの、前半の終盤から、
柏ボール保持時に、瀬古や脇坂、山根といったあたりが橘田の脇のスペースを埋め、
ダブルボランチのような守り方に変更してから守備が安定し、試合が落ち着いた感じだったね。
個人的に、ベンチの層は川崎の方が厚いので、
後半、延長に入ったら川崎有利と見ていたのだけど、
その後半に決定的なチャンスを作り出したのは柏。
細谷が大南との競り合いを制してDFラインの裏に抜け出し、
チョン・ソンリョンとの1対1のチャンスを迎えるも、
これは最後のタッチが長くなってしまい、チョン・ソンリョンに防がれてしまった。
大南にチャージを受けてバランスを崩した時にそのまま倒れていれば、
DOGSOによるレッドカードで大南をこの試合から追い出すことも出来たはずなのに、
倒れずにゴールを目指した姿にFWとしての意地を見たね。
今季の開幕戦でPKを決め、ガンバのゴール裏を挑発したように、
ガンバサポの中には細谷のことをよく思っていない人も多いだろうけど、
個人的にFWはこれぐらい気が強くないとやっていけないと思うので、
細谷には良い意味で変わらずに日本を代表するFWに成長して欲しいと思う。
川崎も後半アディショナルタイムに小林悠がフリーでヘディングシュートを放つも、
GK松本の正面を突いてしまい、
お互いに決め手を欠くような格好で延長戦に突入することになった。
決着は元韓国代表守護神のワンマンショー
スコアレスで迎えた延長戦も両者譲らず、どっちに転ぶかわからない試合展開が続く。
すると、後半32分に投入された小林悠が負傷し、
延長後半の頭から元フランス代表のゴミスがピッチに出てきた。
フランスやサウジアラビアでも結果を残したストライカーを生で見るのは初めてだったので、
個人的に注目していたのだけど、正直鬼木監督の期待に応えられたとは言い難い。
抜群の体躯を生かしてくさびのパスをキープする場面はあったものの、
守備の貢献度が低くて後ろの負担が大きくなってしまい、
逆に柏に攻め込まれる時間が長くなってしまっていたからね。
まあそれでもゴールを決めてくれればリスクを犯した価値もあったんだろうけど、
延長後半の最後に訪れた山根のクロスからの決定機も決められず、
後のPK戦でもPKを失敗するなど、仕事は出来なかったからね。
川崎との契約がどうなっているのかは知らないけど、
川崎のサッカーに合っている感じもないし、
そんなに長く日本にいないんじゃないかという気がしてしまった。
結局、試合はスコアレスのまま120分が過ぎ、
1990年の松下電器と日産自動車の試合以来、
33年ぶりにスコアレスのままPK戦に突入することに。
このPK戦もこれまでの120分の戦いを象徴しているかのようにお互いに決め手を欠き、
10人目のGK同士の対決までもつれ込んでしまう。
ただ、柏でPKを外した仙頭と片山はクロスバーにシュートをぶつけての失敗だったのに対し、
川崎のPK失敗はいずれも松本がセーブしてのものだったので、
どちらかと言うと松本の方がシュートストップの感覚を掴んでいる、
俗に言う”当たっている”ように見えた。
ところが、先攻のキッカーとしてペナルティスポットに立ったチョン・ソンリョンが、
神様コースにシュートを決めてみせると、
これまで柏のフィールドプレーヤーのシュートにさっぱり触れていなかったのに、
後攻のキッカーの松本のPKを完璧に読み切ってセーブしてしまった。
リーグ戦を見ていても以前ほどの鉄壁感は無くなっているし、
この試合でもキックのミスが多くて、衰えたなと感じる場面は増えたけど、
韓国代表として2度のワールドカップでゴールマウスを守っているだけあって、
ここ一番で自身のベストパフォーマンスを引き出す勝負強さは、
やはりさすがだなと思わざるを得なかったね。
川崎に勝者のメンタリティを感じると言う隔世の感
最後に美味しいところを全部持っていったチョン・ソンリョンの活躍により、
川崎が3年ぶり2度目の天皇杯制覇。
この試合を見ていて、2020年に圧倒的な強さでリーグ優勝したところを頂点に、
チーム力は緩やかに下降線に入っているのかなと思うところはあったけど、
それでも最後にタイトルを獲得するのは勝者のメンタリティが根付いてきたことの証。
来季以降も川崎はタイトル争いに絡んでくるだろうけど、
シルバーコレクターと呼ばれていた頃の可愛げが懐かしいなとも思ったり。
そして、今のチーム状態ではそんなことを願うことも憚られる感じだけど、
そんなヒリヒリするようなシーズン終盤の戦いにガンバも加わりたいなと思った、
2023年シーズンの国内プロサッカーの最後の試合でした。
川崎フロンターレ0ー0柏レイソル
PK(8ー7)